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東京地方裁判所 昭和53年(特わ)146号 判決 1978年7月20日

被告人

(一)本店所在地

東京都大田区南六郷三丁目一七番九号

株式会社 ユニオンサッシ

(右代表者代表取締役 古川鶴子)

(二)本籍

東京都世田谷区駒沢五丁目六二番地

住居

東京都大田区南六郷三丁目一七番一八号

職業

会社役員

古川鶴子

大正一二年八月一五日生

右の者らに対する法人税法違反各被告事件につき、当裁判所は検察官乙部二郎出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告会社株式会社ユニオンサッシを罰金一、五〇〇万円、被告人古川鶴子を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人古川鶴子に対し、この裁判確定の日から二年間、右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社株式会社ユニオンサッシは、東京都大田区南六郷三丁目一七番九号に本店を置き、金属製建築用内外装品等の製造販売取付等を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社であり、被告人古川鶴子は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人古川は、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、売上の一部を除外し架空仕入及び架空外注費を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ

第一、昭和四九年五月一日から同五〇年四月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一〇四、〇六六、六六三円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五〇年六月三〇日、同都大田区蒲田本町二丁目一番二二号所在の所轄蒲田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額六、三一七、四九七円でこれに対する法人税額が一、六八〇、七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額四〇、六七三、三〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)と右申告税額との差額三八、九九二、六〇〇円を免れ

第二、昭和五〇年五月一日から同五一年四月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が八九、二七二、八六二円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五一年六月三〇日、前記蒲田税務署において、同税務署長に対し、同事業年度における欠損金額が四、九三六、五六九円で納付すべき法人税はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額三四、八六八、八〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)(甲、乙各番号は検察官請求の証拠請求目録番号を示す)

判示冒頭の事実及び全般にわたり

一、被告人の当公判廷における供述

一、同じく検察官に対する各供述調書(三通)(乙2、3、4)

一、東京法務局登記官作成の被告会社登記簿謄本

一、収税官吏の朴固根に対する各質問てん末書(二通)(甲4、5)

一、羅 在の検察官に対する供述調書(甲6)

一、太田好の検察官に対する各供述調書(甲7、8)

判示第一、第二の各事実添付の別紙(一)、(二)の各修正損益計算書に掲げる各勘定科目別当期増減金額欄記載の数額につき

<売上につき>

一、収税官吏迫野毅作成の売上金額調査書(甲2)

一、検察事務官一色潔作成の昭和五三年一月二六日付捜査報告書(甲3)

一、太田好の検察官に対する各供述調書(甲7、8)

<当期材料仕入高につき>

一、収税官吏迫野毅作成の仕入金額調査書(甲9)

一、収税官吏の松井一夫、佐藤正孝、高野論に対する各質問てん末書(甲10、11、13)

一、矢田産業株式会社代表者鶴田弘行作成の申述書(甲12)

一、白岩和明の検察官に対する各供述調書(甲14、15)

<外注費につき>

一、収税官吏迫野毅作成の外注費調査書(甲16)

一、検察事務官一色潔作成の昭和五三年一月二六日付捜査報告書(甲3)

一、収税官吏迫野毅作成の簿外経費調査書(甲21)

一、太田好の検察官に対する各供述調書(甲7、8)

一、収税官吏の長沢淳に対する質問てん末書(甲17)

一、長沢勲三、上村忠助、花井新吉の検察官に対する各供述調書(甲18、19、20)

<交際接待費・雑費につき>

一、収税官吏迫野毅作成の簿外経費調査書(甲21)

<諸会費につき>

一、収税官吏迫野毅作成の経費(諸会費)調査書(甲22)

<雑収入(昭和五一年四月期のみ)につき>

一、収税官吏迫野毅作成の雑収入調査書(甲23)

<受取利息につき>

一、収税官吏迫野毅作成の預金高及び預金利息調査書(甲24)

<割引債券償還益(昭和五一年四月期のみ)につき>

一、収税官吏迫野毅作成の債券取引調査書(甲25)

<売上割戻しにつき>

一、収税官吏迫野毅作成の簿外経費調査書(甲21)

<交際費損金不算入につき>

一、収税官吏迫野毅作成の交際費損金不算入調査書(甲26)

<事業税認定損につき>

一、検察事務官一色潔作成の昭和五三年一月三〇日付捜査報告書(甲27)

<欠損金額(昭和五一年四月期のみ)につき>

一、押収してある被告会社昭和五一年四月期分確定申告書(当庁昭和五三年押第六八八号符二)

別紙(一)、(二)修正損益計算書に掲げた公表金額及び昭和五〇年四月期につき過少申告、昭和五一年四月期につき欠損申告の事実について

一、押収してある被告会社昭和五〇年四月期分、昭和五一年四月期分各確定申告書各一袋(前同押号符一、二)(本件売上繰延及び外注費繰上経理がほ脱所得を構成しないとする弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、被告会社の昭和五〇年四月期の売上除外額中、山形県警、秋田県警工事分五、八三七、〇〇〇円は単なる売上の翌期への繰延であって一般の売上除外分とは異なるし、また、昭和五〇年四月期の外注費過大計上中、東和工業(株)分五、〇〇〇、〇〇〇円については外注費の繰上計上であって、他の外注費過大計上額が架空計上費であるのに対し、それは単なる実際の外注費の経理時期の繰上げに過ぎない。右のような期末決算における経理は、通常一般的になされているいわゆる期間計算の問題であって、ほ脱所得として刑事処罰の対象とはならないと主張する。

しかしながら、被告会社の経略担当者太田好の検察官に対する昭和五三年一月二六日付供述調書(甲一の8)によれば、太田において右の各経理処理が税をほ脱するための不正な帳簿処理であることは認識したうえで行なったものであり、当時いずれも被告会社の社長である被告人古川に一応説明し了解を得ていると記憶している旨供述しており、被告人も検察官に対する昭和五三年一月二五日付供述調書(乙3)第一八項によれば、太田から了解を求められ私が同意して行わせた筈とおもうと供述している。更に被告人は当公判廷においても、利益操作につき右太田の行為を了解していたのかの問に対し「私が指示していたのです」と供述し、更に、確定申告書の提出についても、「その数字が正確でないことは知っていました」旨供述している事実が認められる。

右の各事実を総合すれは、本件売上繰延及び外注費繰上経理は当該年度の所得をほ脱するためになされた経理担当者太田好の不正な帳簿処理であって、これを被告人において説明をうけ了解していたものと認められ、従って、被告人にほ脱の概括的犯意を認めることができる。

ところで法人税法における所得金額は、各事業年度を単位とし、期間計算により損益を算定すべきものとされており、それは恣意を許さず、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すべきものと解されるところ、被告会社の右経理処理は当該事業年度における利益を低く調整するためになされたものであって税をほ脱するためになした所得必匿行為ということができる。

従って、本件は真実の所得を隠蔽し、過少申告をなしたものであるから、ほ脱所得として刑罰の対象となることは明らかである。

(預金利息につき源泉徴収された所得税をほ脱額計算上税額控除すべきである旨の弁護人の主張に対する判断)

一、弁護人は、法人税法六八条一項の規定を根拠として、本件ほ脱税額の計算上、定期預金等の利息にかかる源泉徴収税額につき、税額控除を行なうべきである。尤も右税額控除は納税者の申請を条件とされているが、それは源泉所得税納付事実の証明義務を納税者に負わせようとする技術的規定にすぎないと主張する。

二、この点につき考えるに、法人税法六八条一項にいう「利子及び配当等」に対し源泉徴収された所得税は、これを実質的にみれば法人の課税所得に対する法人税の一部前払と目されるところから、重複課税防止の趣旨に基づき、法人税額の算定に当っては必然的に考慮さるべく、当該法人の会計処理内容の如何を問わない趣旨を表わしたものであるが、しかしながら税務署長において、当該法人が支払いを受くべき多種多様の所得、就中、金額も比較的少額である利子及び配当等に対するすべての源泉所得税額の確定については困難であるとの行政的配慮から、当該法人が確定申告書に掲記し、明確にした場合に限り適用するとしたものであり(六八条三項)、従って比較的少額な収益である利子及び配当等について確定申告をするか否の選択を当該法人に委ね、その申告がないときは、同条四項の「やむを得ない事情」の認められない限り考慮されないことを規定したものである。

従って、租税法は六八条一項の重複課税防止の趣旨をあくまでも貫くことを予定せず、当該法人において法六八条三項による控除の申告のあったときのみ、その税額を法人税額より控除することとしたものであるから、当該法人において簿外定期預金等が存在し、これに対する源泉徴収所得税額を申告しようとすれば右預金の存在が税務官庁に発覚するために、法六八条三項による申告をしなかったような場合には、当該法人は当初より法六八条一項による所得税額控除の特典を予め放棄しているものとみうるべく、従って、当該法人において簿外定期預金等の設定による所得秘匿行為をする以上は、確定申告による税額控除の規定の適用を享受する余地はないものといいうるし、しかも、所得秘匿行為の結果として後にいたって税額控除の適用は受け得なくなるであろうことは、右行為時において当然概括的にも認識できることである。

従って、税額控除をなすべきである旨の弁護人の主張は理由がない。

三、なお、本件は被告法人の簿外定期預金等の利息につき、仮名による個人の源泉徴収所得税として源泉分離選択課税の適用を受けていたものであるために、右分離選択課税の税率が適用された分については、右の税率を適用したことが誤りであるので、通常の税率に引き直して計算しているが、この点につき弁護人は、源泉徴収所得税の誤納額の還付請求権として右源泉徴収所得税額の一部についてほ脱所得に加算している措置は著しく妥当性を欠くと主張する。

しかしながら、分離選択課税は個人の納税者のみに認められた制度であるから、被告会社の簿外定期預金等の利息につき、分離選択課税の税率二五%を適用して源泉徴収したのは誤りであって、一五%が正しい以上はこれを是正する必要がある。

ところで納税義務者において税額控除の申告をしない以上は、税額分は損金に算入されるのであるから(法人税法二二条三項)、納税義務者としては一五%を控除した分の利息のみを申告すれば足りる。それは一五%を控除した八五%の利息分について収益の実現があったとみることができるので、右利息分につき申告がない以上はその額は、ほ脱所得を構成することとなる。

しかして、前記二五%と通常税率一五%との差額一〇%については、法律上当然に被告会社に過誤納による還付請求権があり、それは遅滞なく金銭で還付を受け得るものであるから、同金額をほ脱所得額に算入することは差支えないといわねばならない。

以上のとおりであるから、この点の弁護人の主張も失当である。

(法令の適用)

被告会社につき

いずれも法人税法一五九条、一六四条一項。刑法四五条前段、四八条二項。

被告人につき

いずれも法人税法一五九条(いずれも懲役刑選択)。刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(判示第一の罪の刑に加重)。

同法二五条一項。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 松澤智)

別紙(一) 修正損益計算書

株式会社ユニオンサッシ

自昭和49年5月1日

至昭和50年4月30日

<省略>

<省略>

<省略>

別紙(二) 修正損益計算書

株式会社ユニオンサッシ

自昭和50年5月1日

至昭和51年4月30日

<省略>

<省略>

<省略>

別紙(三) ほ脱税額計算書

株式会社ユニオンサッシ

昭和49年5月1日~昭和50年4月30日事業年度

昭和50年5月1日~昭和51年4月30日 〃

<省略>

<省略>

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